トルコ −それが初めての海外旅行−

 トルコが初の海外旅行だった、というと、誰もが「ああ、アナタらしい」と笑う。私もそう思う。あれは大学3年生の夏だった。同じ史学科(そのころ私は歴史を勉強していた)の友人と、何となく「どこか行きたいねぇ」と話をしていた。彼女の専攻は古代ギリシャ、私はアラブ。大学時代、一緒に過ごした仲間たちはみんな史学科で、そんなふうに専攻は違っていたから、興味の対象も違っていた。大学3年の夏は旅行に出やすい状況なのか、仲間うちでも中国史を専攻している人は中国へ、古代ローマ史を専攻している人はイタリアへ行くという。他の人も行くから、というのではなく、円高だったし、来年は就職活動に卒論と待っており、なんとなく今行かなきゃいつ行けるの?というような状況だったのだ。
 なぜトルコなのか。イスタンブール、そう、コンスタンティノープル!高校二年の時に塩野七美の「コンスタンティノープルの陥落」を読んでから、行ってみたかったあこがれの都。トルコなら歴史的にギリシアもアラブも兼ねるから、二人の興味の対象も重なるという理由も手伝って、行き先はすぐに決まった。オンナノコ二人、21歳のことだった。
 

 それは「トルコ周遊14日間」とかいう、18万円くらいのツアーだったように思う。博物館の学芸員補助のバイトや、結婚式場のバイトでどうにか貯めたお金だった。参加していたのは、もう海外旅行はいろいろ行っちゃった、というような熟年が多かった。一番若いのが私達で、次が添乗員、といった具合。
 16時間ほどのフライトを経て、空港に降りたったのは夜もかなり遅かったが、ホテルの向こうにモスクのミナレットがライトアップされたのを見たときに、涙が出そうになった。ああ、私はついにあこがれのこの地に来たのだと実感した。その日の夜、時差で辛くて仕方がないのに、ホテルでヨーグルトシェイクを飲んだことを、今でも忘れない。それはトマトジュースのようにしょっぱかった。甘いとばかり思っていたのに。初めて肌で感じた、カルチャーショックだった。

 まあ、行程は良くあるヤツで、イスタンブールから首都アンカラに飛び、そこからバスでカイマクルやパムッカレで世界遺産(当時は世界遺産じゃなかったな)を見、商業都市イズミールからトロイを観光して再びイスタンブールへと戻ってくるというものだった。トルコを初海外旅行の地に選んだのは、きわめて正しかった。遺跡はすばらしいし、気候も最高。食べ物もおいしい、お土産も文化も習慣も何もかもが新鮮で楽しかった。この後私は旅行会社に就職し、添乗員もやるようになるが、「旅行」に対して何の感動もなくなってしまうと、初心に戻るためにいつもこの旅行を思い出すようにしている。

 夕方になると遠くのモスクからお祈りを呼びかけるアザーンが、荘厳に響く。ボスフォラス海峡にかすみがかかり、金角湾はきらきらと夕日に照らされて美しい。1453年、ここでコンスタンティノープルの運命をかけた、マホメット2世とコンスタンティヌス11世の壮大な戦いが繰り広げられていた。それはただの領土争いなどではない。イスラム世界対キリスト世界の、最後の攻防をめぐる戦いであり、このコンスタンティノープルの陥落をきっかけに、ここで長い間培われてきた高度な文化はヨーロッパに流れ、それがルネサンスを花開かせたのだった。そんなことをぼんやりと考えながら、街をそぞろ歩く。あの美しく荘厳な風景を、私は忘れないだろう。

 トルコにはもちろん、イスタンブール以外にもたくさんの見所がある。ここまで古い歴史・遺跡、そして様々な文化様式を見ることのできる国はそんなにないだろう。トルコの大部分をしめるアナトリア半島は、鉄を発見した民族ヒッタイトが栄えたところだし、ギリシア時代の建造物もあちこちに残っている。カイマクルには15世紀、弾圧されたキリスト教徒達が柔らかい岩盤をけずり、当時3万人もの人を収容できたという地下住居跡が残っている。自然もすばらしい。奇岩で知られるカッパドキアでは、世にも奇妙な風景が、美しい夕日と共に見ることができる。パムッカレでは綿のお城のような石灰岩に温泉が湧き、その風景は壮大だ。その向かいの温泉では、ギリシア時代の遺跡の上にお湯がはってあり、温泉に入りながら足下には遺跡が転がっているという、摩訶不思議な体験が出来る。トロイの遺跡と言えば、やはり歴史を専攻してきた者にとって、一度は行ってみたいところだろう。そしてすばらしいブルーをたたえた地中海に面しており、リゾート地もある。

 トルコはこんな、マルチプルな国なのだ。初めての海外旅行がトルコで良かったと本当に思う。みなさんにも、一度は行ってみてもらいたい。その際には塩野七美「コンスタンティノープルの陥落」とシュリーマン「古代への情熱」を忘れずに。

モドル

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