基隆入港 −  台湾 2001年12月29日−

 12月29日、私達の船は台湾の基隆港へと入港した。この基隆は古くから貿易の中心となっていた活気のある港町で、とくに夜の屋台市、夜市が有名だ。夜遅い出港だと、私達も夜市でたらふくおいしい台湾料理を頂くことが出来るのだが、今回は6:00入港、19:00出港という慌ただしさ。台湾の出入国手続きはとても大変なので、台湾でおいしいものを食べるのは、入港前からあきらめている。
 

 06:00入港、パイロットステーション到着は05:00。パイロットステーションとは、港の入り口になるところで、そこからその港の水先案内人、パイロットが乗船し、船の入港を助けてくれる。大抵、港の1時間ほど手前にあり、港までの入り組んだ水道を案内してくれるのだ。晴海港だと、浦賀がパイロットステーション。パイロットボートに乗って、パイロットは船に乗船してくる。パイロットだけが乗船することもあるが、大体シッピングエージェントや現地官憲が乗船してくるので、私はこのパイロット到着の時間にはスタンバイしていなければならない。早く着くこともあるので、パイロットの30分前には待機。つまり、06:00入港だと、04:30にはスタンバイしていなければならないのだ。CIQ(税関Customs、入国審査Immigration、検疫Quarantine)担当者の入港日の朝は早い。

 ものの本によると、客船の入国審査は船内のラウンジで行われるという。我がオリビア号もその例にもれず、一番こじんまりとしたラウンジ、ドニエプルラウンジにて行っている。台湾では、パイロットステーションで官憲が乗ることはなく、着岸後ということで、少し気分的に楽だ。



 06:00よりも少し早かっただろうか、まだ夜の明けぬ薄暗い基隆港へと、船は静かに着岸した。着いた港は街の真ん中にある新港だ。ターミナルにボーディングブリッジがつくと、シッピングエージェントが乗ってきた。「うわー、お久しぶり!!」と再会を喜ぶ。基隆は私にとって3回目、エージェントの人達もほとんど顔見知りだ。私にとって、現地の人々と知りあう機会は、この小さなドニエプルラウンジしかないのだった。

 エージェントのポーさんは、50歳くらいの人で、英語とちょっぴり日本語を話す。日本占領下にあったおじいちゃん、おばあちゃん世代だけでなく、ポーさん達戦後世代の人々もちょっぴり日本語を話すのだ。さらに若い世代だと、韓国同様日本ブームで、街のあちこちに日本のアイドルやらのCDやポスターを目にすることができる。まだ30歳すぎくらいのイミグレたちも日本語が分かりそうなので、日本語での会話を慎むことにした。一人、首都・台北から来るというイミグレが遅刻してきたせいで、06:30からの入国審査は07:00になっても始められない。審査場となる船で一番大きなミュージックサロンの、閉じられた鉄の扉の向こうには、たくさんの乗船者が待っている気配が伺える。「遅刻するなんて、信じられない!」と愚痴の1つもこぼしたくなるが、おっと、この人達は日本語が分かるかもな、と思いとどまった。「現地官憲の理由で」などと説明しても、朝早くから待っている人々のイライラはつのるばかり。一番のツアーは08:00からスタートするのだから、それまでに入国手続きを終わらせねば、という私の焦りも頂点に達した頃、ようやく全員揃って始めることが出来た。

 台湾の入国審査は一風変わっている。パスポートを片手にスタンプを押す、というのが通常の1by1だが、ここではパスポートにスタンプするのは後回し、とりあえず顔と名前を確認して、バッジのようなランディングカードを引き替えに渡してくれるのだ。これで、入国審査は終了、バッジをもらえた人から下船できるようになる。全員が終了したのはすでに08:30。朝食の準備をレストランに依頼し、官憲が朝食を食べている間に、パスポートを、乗船名簿順に並び替える。常に並び替え、数を確認する。これが混乱を招かないコツだ。パスポートも650通ともなると、かなりの量、数をかぞえるだけでも一苦労なのだ。

 食事を終えると、今度は一冊一冊開き、パスポートにスタンプする作業が始まった。約1時間半もしたであろうか、入国のスタンプ押しを終え、ほとんどのイミグレは帰り支度を始めた。しかし、作業が終了したのにも関わらず、まだ二人のイミグレが残っている。彼らはこれから、乗客名簿のデータとパスポートのデータが正しいかどうかをひとつずつチェックするという。すでに日は高く、10:30。一人のイミグレと世間話をしつつ、その作業を見守るが、一向にすすみそうもない。30分でたった25人しか終わっていないのだった・・・。
「絶対今日中には終わらない!」
そう思った私は、何となく台湾の屋台の話になったのに乗じて、「お昼でも食べに行きたいですね」と話しかけてみた。すると、「一緒に行きましょう!」とかなりの乗り気、パスポートのチェックは早々に終わらせて一緒に昼食、ということになった。
 そうなると作業も早い。別にイミグレを甘くみているわけではないが、大抵の国の官憲は女性に弱い。かなり無理なお願いでも「何とかお願いできませんかねぇ・・・」と頼み込むと何とかなってしまうこともしばしば。しかし、食事に一緒に行くというのは初めてだったので、内心「接待か。面倒だな」と少し憂鬱になる。しかし、さっさと仕事を片づけられることを思い、彼らと私も含め総勢6名で屋台へと繰り出したのだった。



屋台の様子。写真は前回の時のもの
 位置的には石垣島の隣にある台湾は、日本の10月くらいの気候で日中は結構暑い。お昼をとっくに過ぎているというのに、屋台街は活気づいていた。おいしそうなソバのにおいや、炒め物のにおいがあちこちから漂ってくる。どれもこれもおいしくて、キャーキャー言っている私達に、彼らはいろいろな料理をあちこちから注文してくれるのだった。接待か、お金足りるかなぁ、なんて考えていたのに、「いいから食べなよ」と食べ物を運んでくれる彼らはすでにお父さん鳥のようだ。すっかり満腹した私達を、基隆港を見下ろせる高台の公園へと連れて行ってくれた。
 出国手続きは17:00からはじまり、18:00には乗客全員が帰船することになっていたので、あまり長い時間一緒にいることはできなかったが、台湾のこと、日本のこと、たくさん話すことができた。こんなに親切にしてもらったことを、私はいつまでも忘れないだろう。きっと台湾に来るたびに思い出すな、と思いながら、出国手続きのために帰船した。



 コートを来ているときは「観光案内をしてくれた親切な学生さん」のようだった彼らも、コートを脱ぐと立派な制服に身をつつんでおり、どうみても立派な入国審査官だ。再び一緒に出国審査の作業を始めるというのも、なんだか奇妙なものだ。
 多くの国では、入国時に入国スタンプを、出国時に出国スタンプを押す。中にはそれをいっぺんに入港時に行ってしまう国もあるのだが、台湾では、再びパスポート一冊一冊を開き、スタンプを押した。
 18:00過ぎ、全員の乗船確認が取れた、とセキュリティーオフィサーから連絡が入る。こちらもイミグレーションが終了し、チーフパーサーに"All passengers on board!"と伝える。"Sail away"という答えが返ってきて、ボーディングブリッジが上がり始めた。自分が船を出しているかのような錯覚に酔いしれる、最高の瞬間だ。"Sail away!"。その言葉を合図に、錨は上げられ、もやいが埠頭からはずされた。とても親切にしてくれたイミグレ、シッピングエージェントともこれでお別れ。デッキにはたくさんの人々が、岸壁に向けて紙テープを投げている。これぞ、客船の出港の見せ場だろう。19:00ちょうどに出港のテーマ曲(これは、クルーズ毎に決められている)が流れ、船は光にきらめく基隆港を後にした。基隆!!すばらしい思い出をありがとう。親切にしてくれて、ありがとう。
貴重な作業中の記念撮影。
四角い箱がパスポートケース。

 翌日からはムアラ入港の準備に入ったのだが、イベントが多くてなかなか思うように仕事がはかどらない。そう、年末年始が台湾とムアラの間に横たわっているのだ。船上でお正月を迎えたことが今までに何度あっただろう。今回は出港してすぐ、ということもあってか、あまりお正月雰囲気がないままにお正月に突入してしまったように思う。お正月はキッチンスタッフが腕によりをかけて、おせち料理を作ってくれたのだが、直前になって乗客が増えてしまったために食材がたりず、スタッフはおせちディナーにありつけなかった。しかし、鯛のかわりにぶり、など工夫しておいしいお弁当を作ってくれた。大晦日には、恒例の花火があがり、きっと乗客にとっては忘れられない年越しになったに違いない。

 私はというと、相変わらずその陰でパスポートを数えたり、パスポートに番号の書かれたシールを貼ったりしているのだった。ムアラはオリビア号での入港は初めて、ピースボートでは二回目の入港となる。私にとっても二回目の訪問であったが、それも何年も前の事なので、入る前から緊張感が漂っていた。

 ブルネイという国は変わった国だ。周知のとおり、良質な天然ガスに恵まれ、その輸出に国の財源のほとんどを頼っている。天然ガスの90%は日本のガス会社に輸出しており、日本とは実は密接な関わりがあるのだ。今でも王様が国を治め、近年ビル・ゲイツに抜かれるまでは個人資産は世界一だったという。ブルネイの首都、バンダリ・スリ・ブガワンの近くには、王様が個人的に建てた私設遊園地・ジュルドンパークがあり、そのお金持ちぶりを伺うことが出来る。ブルネイ入港は1月2日。その準備に追われたお正月だった。

モドル

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